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エヴァから入る日本刀の世界《ヱヴァンゲリヲンと日本刀展 レビュー》

2013 年 7 月 29 日 3,620 views No Comment

本展「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」はその名の通り、アニメ(及びマンガや小説でも展開する)「エヴァンゲリオン」と日本刀のコラボレーション企画である。本展で公開されるのはまず一つには、現代の日本刀製作者たちが手がけた、「エヴァンゲリオン」の中に登場する武器を再現した作品である。エヴァ弐号機のプログレッシブナイフや「エヴァンゲリオンANIMA」に登場する「マゴロクソード」や「ビゼンオサフネ」、さらには「ロンギヌスの槍」といった武器の数々が、人間がそれらを手にしたときにちょうど劇中でエヴァが使用したときと同じサイズに見えるような寸法で再現されている。またこの他、「エヴァンゲリオン」の世界からインスピレーションを得て、エヴァの機体や登場人物などをテーマにして意匠を凝らした作品も出品されている。

本展の最初の開催地であった備前長船刀剣博物館では、本展の他にも2011年には「戦国BASARA」とのコラボレーションを行っており、さらに今月(2013年7月)からは「二次元VS日本刀」という企画展も開催している。本展はエヴァを元に刀剣を制作するという企画だが、この二次元展では逆に刀剣を元にしてコンテンツアーティスト(=作家、イラストレーター、漫画家、造型家、映画監督他)が新たなキャラクターやストーリーを展開するという企画も行われている。そうして制作されたイラストやグラフィック作品を元となった作品とともに展示するという試みである。

刀剣博物館がなぜこのように二次元コンテンツと積極的にコラボレーションを行おうとするのか?その背景にあるのは、日本刀の将来への危機感と、普及の必要性への意識である。近年では日本刀の価値を理解する人が減り、また不況の影響もあって、日本刀の価格破壊が起きているという。ネットオークションなどではたたき売りに近い価格で大量の日本刀が出品されている。この状況に危機感を持った刀匠・職人たちが、現代の日本刀の価値と魅力を若い世代に伝えるために一計を案じて企画されたのが本展及びこれらの展覧会というわけだ。

どのような業界であれ、その世界に関心をもつ人々が一定数存在することはその業界が存続していくための必要条件である。そして願わくばそこで行われていることが社会的に価値を認められていることが望ましい。技術を磨きながら誠実に製作を続ければ、見る目のある人には理解され本当によいものは残っていく、という考え方をする職人も中にはいるだろう。しかし自分たちのサークルの中で粛々と製作を行っているだけでは、新たな鑑賞者を得ることは難しく、もともと関心のある人や見る目のある人にしか目を向けられない存在となってしまう。普及ということを考えれば、黙ってよいものを作り続け目を向けてくれる人々を待つというだけではなく、自ら動いて人々の目に触れる機会を作っていくことも必要である。そして普及活動において鍵となることの一つは、いかにしてそれまでその分野に関心のなかった人々を引き付けて、彼らに関心を持ってもらうかということなのだ。

本展のような二次元コンテンツとのコラボレーション企画は、流行への迎合だとか通俗的だとかいう批判もありそうだが、メディアでの取り上げられ方や実際の来館者数及びその観客層を見るにつけ、その普及効果は相当なものであると思われる(備前長船刀剣博物館での来場者数は47000人だそうである)。伝統文化は貴重なものであり守られるべきなのに一般人にはその価値がわからない、と嘆くだけでいるよりは、自らアピールして人々の目に触れ関心をもってもらい将来の観客や理解者を作り出そうと模索するほうがずっと真摯な姿勢というべきだ。また実際のところ、現代の刀匠たちには高度な技術があり質の高い作品を作り続けているのだから、それが目に触れる機会さえあれば、日本刀に関心を抱く人も増えていくことだろう。

本展はそういった普及の意味が大きいこともあり、展示の導入部分ではパネルによる日本刀の製作工程の説明、及び実物展示による平安から幕末まで時代ごとの刀の形状の変遷の紹介がある。そして鍔をはじめとする刀装具の小展示を経て、エヴァ関係の刀剣の展示が始まる。

作中の特定のキャラクターや機体をテーマに制作された作品では、刀剣の個々の部位にエヴァの設定やイメージに基づいた意匠が数多く盛り込まれている。例えば、日本刀の刀身に彫られる模様としてポピュラーなのは両刃の剣に龍が巻き付いた「倶利伽藍龍」だが、エヴァ零号機をテーマにした脇差の刀身にはこれを翻案して「ロンギヌスの槍」に龍が巻き付く図柄が彫り込まれている。またこの脇差の鞘は零号機の機体色である山吹色であり、鍔にはNERV本部のモニタに写し出される六角形を並べた警告マークが彫られ、柄頭は零号機の頭部を模し、小柄(鞘の側面の小刀)はエヴァの操縦装置である「エントリープラグ」を模した形状となっている。これらの細部まで凝った意匠を目にすればエヴァファンなら思わずニヤリとしてしまうだろう。これらの作品を見ているだけでも、ひとくちに刀と言っても、刀身、鍔、柄、鞘といった各パーツ、そしてそれらのさらに細かい部位には数多くのバリエーションがあること、そしてまたその部位ごとに職人の意図に沿って様々な細工を施すことができることがよくわかる。

「ビゼンオサフネ」や「ロンギヌスの槍」などの再現武器はその存在感だけでも十分有無を言わさぬ迫力がある。また「ロンギヌスの槍」などはその二重螺旋の構造を再現するには高度な技術が必要とされたであろうことは素人目にも明らかだ。本作の担当職人である三上貞直はこの巨大な作品の制作のために自らの工房まで作り直した、という気合いの入りようである。個々の作品解説を読めばわかるが、本展の出品作品はいずれも大変な時間と労力をかけて製作されており、そこには各刀匠・職人の技術がつぎ込まれている。例えば、比較的小さなプログレッシブナイフひとつを取ってみても、両刃の刀身の表裏左右の刃文を全て対称に揃えるのには熟練の技が必要とされる。この作品は石田國壽刀匠が3本の失敗作を経て、素材の成分の割合や焼き入れの際の炭の大きさなどを繊細に調整した末に完成したものなのである。エヴァ弐号機をテーマにした短刀には、弐号機のパイロットであるアスカがプラグスーツ姿で刀身に立体的に彫刻されている。この「欄間透かし」といわれる技法は、行える職人が国内に数えるほどしかいないという。しかも人間の女性を欄間透かしで彫り込むのは歴史的にも異例のことで参考になるものもなく、初めは無謀と言われていた。しかし本作の彫りを担当した刀身彫刻師の片山重恒は、ナイフによる試し彫りなどの研究を経てこの試みを成功させ、浅い彫りでありながら女性の柔らかい肉付きまで表現してみせた。なお片山は自身もエヴァファンで以前からエヴァをテーマにした現代風の拵を考えていたという。これらの職人の並々ならぬこだわりを見れば、ここにある作品は人目を引くための際物どころか、いずれも真剣勝負そのものであることがわかるだろう。

ただ本展の展示で少し気になったのは、解説文の分量だった。導入部の日本刀の製作工程や歴史的変遷の説明にしても、エヴァ関連の作品の説明にしても展示品の数に比して解説文の分量が多く、作品を観ながらそれら全てを読み通すのはたいへんだった。エヴァ関連の作品の解説内容はエヴァの設定の解説から、用いられている技法の紹介、製作した職人の紹介、彼らのこだわりなどであり、解説の分量は伝えたいことの多さの表れなのだろうが。しかしながらそれら全てに目を通す人々がどれだけいたのかは疑問であり、全て文章で書くのではなく図解にするなど、解説の量や方法については洗練の余地があったように思う。

ともあれ、本展は普及のための企画としては大きな成功を収めているといっていいだろう。エヴァとのコラボレーションという企画の発想と、一見突飛な組み合わせに見えるこの企画を実現させた刀剣界の実行力、そしてその勇気は讃えられてよい。しかし考えてみれば、現代の若い世代が刀を目にする機会といえば、現実の世界よりもむしろマンガやアニメ、ゲーム(あるいはドラマ)といったものの中での方が主である。それを思えば、本展をはじめとする日本刀と二次元コンテンツのコラボレーションは突飛というよりもむしろツボを押さえているというべきだろうか。マンガやアニメを入り口として日本刀に関心を持った、という人々が刀剣界を支える中心的役割を担う日がやがてやってくるのかもしれない。


text:佐々木玄太郎


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