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東洋花布 《紅型 BINGATA展 レビュー》

2012 年 9 月 28 日 2,085 views No Comment

15世紀に成立した琉球王国は、現在の沖縄本島を中心に様々な国や地域との交流を活発に行う中で、独自の王朝文化を築き上げた。王族や氏族の礼服・日常着として使用された「紅型(びんがた)」もその1つである。海上交易を通じて、中国の型紙技法をはじめ東洋のあらゆる染織品から様々な要素を吸収し、発展した紅型は「東洋花布」と称され、周辺国への優れた輸出品となっていった。

1972年の沖縄返還から今年で40周年を迎えるのを記念し、琉球王朝時代の染色文化を紹介する紅型展が大阪市立美術館で開催されている。この展覧会では琉球処分や第二次世界大戦という度重なる危機を経ながらも、現在まで守り伝えられてきた紅型の優品245点が、前期・中期・後期に分かれて展示されている。かつて琉球王家に伝えられ、現在は那覇市歴史博物館が所蔵する国宝10点や、今回初公開される洋画家の岡田三郎助による蒐集品58点(松坂屋コレクション)など、見所の多い展示内容となっている。


紅型の「紅」は様々な色のことを指し、「型」は様々な模様のことを指しているとされている。その起源は13世紀頃まで遡ると考えられているが、「紅型」という漢字表記が広く一般に普及し始めたのは、昭和になってからと比較的新しい。それゆえに沖縄では「びんがた」と平仮名で表記することが多いそうである。紅型は沖縄を代表する染色品として伝統的工芸品にも指定されているが、その登録名を確認してみると、こちらも「琉球びんがた」となっている。「紅」という漢字を使うよりも平仮名の方がより多彩な特徴を伝えやすいという利点があるのだろう。

琉球王国時代の紅型は主に王族や氏族のための衣裳として染められていたため、職人たちは王家の手厚い庇護を受けた。都であった首里の周辺では多くの染め物屋が栄えていたと言われている。その他の紅型の用途としては、諸外国の使節を迎える際の踊衣裳や、中国や日本への進物などが挙げられる。琉球王国と距離的にも近く、特に交流が盛んであった中国や日本の存在は紅型にも影響を与え、吉祥文様や友禅染にみられるモチーフなどが紅型の意匠の中に取り入れられていった。

国宝《黄色地鳳凰蝙蝠宝尽くし青海立波模様衣裳》は冬に着る少年用の袷衣裳である。鮮やかな黄色地に濃い青(プルシャンブルー)と赤(水銀朱)で鳳凰や火炎宝珠、剣山、宝尽文などの中国的な模様が表現され、それぞれの模様が左右対称になるように配置されている。その色合いや巧みな模様構成からは、王家が所有するのに相応しい格式の高さが感じられる。また作品名にもある「蝙蝠(こうもり)」の模様がどのような意味合いを持つのか調べてみたが、中国語の「蝠」の字の発音が「福」と同じことから、中国では幸運の象徴としてが扱われてきたことが分かった。

この作品をはじめ、琉球王家伝来の紅型衣裳には鮮やかな黄色を下地とするものが多い。これも黄色を最も高貴な色とした中国の影響とされている。中国には古来より万物が「木」「火」「土」「金」「水」の5つの元素からなるとする五行思想がある。これが星占い術の「五方」や「五色」と結びつき、「木・青・東」「火・赤・南」「土・黄・中央」「金・白・西」「黒・水・北」というふうに定められた。このことによって黄色(土)が五行の中央に位置する中和・最上の色となり、中央から全てを支配する「皇帝の色」となった。宋の時代から清の時代にかけての中国では、黄色が皇帝や皇位の象徴として特に尊ばれ、皇帝以外の者が衣服に使用することが制限された。歴代の皇帝の黄色に対する執心ぶりは、例えば清朝の最盛期を築いた康熙帝・雍正帝・乾隆帝の肖像画などに如実に見てとれる。


国宝《白地流水に菖蒲蝶燕模様衣裳》では、初夏を感じさせる植物である菖蒲とその間を縫うように流れる赤・青・緑の流水文が目を引く。ここで見られる緑色は青色(プルシャンブルー)と黄色の色材を混ぜることによって生み出されている。紅型に使用される色の数は、動植物から取り出した染料や顔料から作られる7〜8色が基本とされているが、それらを組み合わせた混色もよく使用されており、より多彩な表現を可能にしている。菖蒲と流水文の周囲には蝶が舞い、その上空には燕が飛び交っている。先に挙げた《黄色地鳳凰蝙蝠宝尽くし青海立波模様衣裳》と同様、着物の中心でシンメトリーとなる模様構成だが、よく見ると燕だけが対称ではなく、全て同じ方向を向いていることに気付く。ここではコマ送り映像のように、着物の端から端へ燕が飛んでいくかのように見せる工夫が施されている。《白地流水に菖蒲蝶燕模様衣裳》に見られる鮮やかで季節感に富む模様の数々は、下地の白によって一層引き立てられ、また模様と模様の間にある適度な余白によって夏物らしい清涼感溢れるものとなっている。


今回の展覧会で初公開となった松坂屋コレクションの内の1点である《白地稲妻に流水桜楓鳥模様衣裳》は、稲妻を意匠として取り入れた一風変わった作品である。ノコギリの刃を思わせる稲妻模様が朱・臙脂(えんじ)・青・黄と色を変えながら繰り返して配置され、その中に桜の花や楓の葉、鳥、流水文が散らされている。紅型においてこのような稲妻模様は「ガンジ型」と呼ばれ、昔から子供用衣裳に用いられてきた。そこには子供が健康に育つようにとの願いが込められている。まさに沖縄の風土が生んだ独特な模様と言えるだろう。この作品には稲妻模様の激しさと、それとは対照的な流水文の穏やかさが混在しており、紅型に特有の不思議な世界観を形成している。19世紀の子供服だが、デザイン的にも色彩的にも斬新さを感じさせる作品である。

この《白地稲妻に流水桜楓鳥模様衣裳》には制作時に使用された型紙が残されており、作品の隣に展示されている。この2つを見比べることによって型紙の中に彫リ込まれた緻密な模様のパターンが、実際の作品にどのように使われたのかを把握することができる。このような型紙は戦時中にその多くが失われてしまっている。会場には他にも数点、型紙とセットで展示されている作品があったが、これらは戦前における紅型の制作状況を現在に伝える極めて貴重な資料と言える。


最後になるが、会場の中程では紅型制作の解説映像が流れている。2005年頃に撮影されたもので、沖縄の伝統工芸士による紅型の制作工程が、道具作り・材料集めを含めた下準備から作品の完成に至るまで詳細に記録されており、私自身非常に勉強になった。約30分と少々長めの映像であり、その上閉館の1時間前にはその日最後の放映が始まってしまうので、作品鑑賞と平行しつつ時間に余裕を持って見ることをお勧めする。

参考文献:展覧会図録
   

text:上田祥悟

『紅型 BINGATA ~琉球王朝のいろとかたち~』の展覧会情報はコチラ


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