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Articles in the 小平信行 Category

小平信行, 展覧会レビュー, 関東 »

[2011 年 4 月 29 日 | No Comment | 4,617 views]
動く絵画・静止する映像 《アーティスト・ファイル2011  レビュー》

何年か前『液晶絵画』の展覧会があった。絵画と映像、この二つの異なった表現領域を液晶という技術を使って融合しようという試みだ。この展覧会ではいろいろな作品が展示されていたが、一つの特徴は液晶に映し出された絵画に動画の要素も取り入れているという点だ。普通の絵画のようだが、実はその中には「動」の仕掛けがあるのだ。液晶で見る絵画には静と動が混在し、これまで体験したことのない不思議な体験をすることができる。

『液晶絵画』は絵画を液晶パネルで見せ、そこに「動」という仕掛けを忍ばせた作品だった。これをまったく逆にした作品、すなわち映像をあたかも静止画のごとくに見せようとしたのが写真家、松江泰治の作品だ。現在、東京の国立新美術館で開催中の『アーティストファイル2011』で松江泰治の最新作を見ることができる。

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[2011 年 3 月 28 日 | No Comment | 4,552 views]
写真が語るもう一つの超現実 《シュルレアリスム展  レビュー》

現代美術作家、杉本博司の作品の中に「観念の形」という写真作品がある。東京大学に19世紀終わりから20世紀始めにかけてドイツで制作された「数理モデル」と呼ばれる石膏の模型が200点あまり保存されている。「観念の形」はこの「数理モデル」に強い関心を抱いた杉本が2004年に撮影したものだ。代数幾何学や微分幾何学などの3次元空間を表現する数式がいったいどのような形を現しているのか、数式を見ただけではなかなかイメージしにくい。そこでこうした数式を視覚に訴えて理解しやすくするために作られたのがこの「数理モデル」だ。「数理モデル」には数式によって様々な形態があるが、どれも美しい曲線を持っている。それはあたかも現代建築や吊橋などでよく見る美しいアーチ型の曲線を見ているかのようだ。

杉本は石膏の模型を暗い空間に置き、大判のカメラで撮影した。写真は漆黒の背景の中に浮かび上がる「数理モデル」の表面の細かいテクスチャーまでをも映し出しており、そのリアルさは見る者に強い印象を与える。杉本は「観念の形」について次のように述べている。
「数理模型は芸術的な野心をまったく持たずに制作されたものです。そしてその非芸術性が私の芸術創作意欲を燃やしたのです。芸術は芸術的野心なしでも可能であり時としてなしのほうがましである、と言えるからです。」(「苔のむすまで」杉本博司より)

東京の国立新美術館で開かれている「シュルレアリスム」展でこの「観念の形」ときわめて良く似た写真が出展されている。「シュルレアリスム」を代表する画家でもあり写真家でもあったマン・レイの作品だ。出品されているのは1934年から36年にかけて撮影された「数学的オブジェ」と題された写真5点だ。

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[2011 年 2 月 27 日 | No Comment | 5,267 views]
孤高の天才建築家 美の秘密 《建築家 白井晟一 精神と空間展 レビュー》

使うこと、すなわち「用」として忠実に作られたものの中に自ずと美が存在する。そう考えたのは民藝運動の提唱者 柳宗悦だった。彼は日常使われる様々な道具や家具などに美を見出したのだ。しかし一方で例えば焼き物などで経験することだが、美的な評価が高いものが、必ずしも使いやすいとはいえない。逆は必ずしも真ではない。

建物についても同じことが言えそうだ。派手なデザインで街のシンボルになった建物が必ずしも使いやすい、あるいは住みやすいとは言えないことがしばしばある。建築家は様々な尺度を持って建物の設計をしなければならない。まず使い勝手、住み心地、そして美しさ、街との景観の中でデザインが許されるかどうかも重要な要素だ。さらに強度もまた大切な項目だ。地震がおきてすぐ壊れてはどうしようもない。そして予算。施主の要望は時に厳しい時もある。これほど多くの要素を満たしながら建築家は同時にそれを通して自己表現もしなければならない。建築は芸術作品の一種だと私は考えるが、絵画や彫刻とは異なる世界だ。

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[2011 年 1 月 27 日 | No Comment | 3,143 views]
「ピンホール」も景色? 《流旅転生 鈴木藏の志野展 レビュー》

焼き物を鑑賞する際に使うユニークな言葉がいくつもある。その一つが「景色」という言葉だ。もちろん器に描かれた絵がすばらしいという意味ではない。例えば重要文化財にも指定されているある有名な茶碗を評した文章には「景色」という言葉が次のように登場する。

「釉薬の溶け具合が均一ではないため、描かれた文様が見え隠れしてむしろ景色になっている」(「茶道具の世界3」より)

「景色」とは作者の意図とは別に茶碗などの器に出た模様のことを指す。古陶磁が専門の出川直樹さんによると、「景色」には実に様々なケースがあるという。釉薬が作りだす色の「むら」や焼成の際にできた「ひび割れ」、焼きしめの器に出る「緋色」と呼ばれる赤みをおびた色、さらには使っているうちに出来た「しみ」なども含まれる。「景色」が多いほどその焼き物は「見所」が多く、おもしろい作品だという。ほとんどは焼成の際に窯の中、つまり人間の手の及ばない世界で出来る模様や割れなどを「景色」と呼び、高温の炎すなわち自然の力による色や形の偶然の変化のことを指す。こうした陶磁器の表面に出来た色や形の「むら」や「しみ」など見方によっては失敗ではないかとさえ思えるのだが、日本人はそれを「景色」と言って評価した。このような見方は日本独特のもので中国や西洋では考えられない美に対する考え方だろう。

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[2010 年 12 月 28 日 | No Comment | 4,439 views]
抽象絵画が生まれたわけ《カンディンスキーと青騎士展 レビュー》

20世紀初頭、ピカソやダリらとも親交があった写真家のブラッサイにピカソはこう言ったという。

「写真は絵画を文学や逸話や主題さえからも解放するために、ちょうどよいときにやって来てくれたんだ。いずれにせよそれ以後、主題のある面は写真の領域に属している・・・。画家たちがせっかく取り戻した自分たちの自由を何か他のことをするために利用しない手はないだろう。」(田所英樹著「絵画の二十世紀」より)。19世紀半ば写真の技術が発明されたとき、写真は絵画の世界に様々な波紋をまきおこした。ある者は絵描きの仕事が写真に奪われてしまうと心配した。しかしピカソは「そっくり」に描かなければならないという義務から絵画は解放されたと喜び、絵画は新たな自由な世界を獲得したというのである。 (続きを読む…)

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[2010 年 11 月 29 日 | 2 Comments | 4,736 views]
写真を否定する写真家?《鈴木清写真展 レビュー》

最近見た一枚の写真が忘れられない。世界報道写真展で2010年の大賞に輝いたイタリアの写真家ピエトロ・マストゥルツォが09年6月にテヘランで撮影した写真だ。

ビルの屋上にたつ一人の女。口に手をかざし何かを叫んでいる。すぐ下の階の窓は明るく輝き、屋上には夕暮れがせまっている何気ない写真だ。実はこの写真が撮影された直前イランでは大統領選挙が行われていた。この選挙をめぐっては様々な不正が行われていたといい、日中は激しい抗議行動が繰り広げられていたという。夜になり通りに人影が消える頃、今度は住人が自分のアパートの屋上にあがり、抗議を続けていた。「独裁者に死を」「アラー・アクバル(神は偉大なり)」の叫びが街中に響き渡っていたという。おそらく向かいのビルから撮影された一枚であろう。叫ぶ女の姿は点のように小さくしか写っていないが、なぜか悲壮感が伝わってくる。屋上にぽつんと立つ女のしぐさが、窓辺の明るさとそれとは対照的な夕暮時のひんやりとした空気感によって強調され、写真ではもちろん伝わってこないはずの叫び声があたかも街中に響き渡っているかの様子がとらえられている。視覚に訴えてしかいないはずの一枚の写真が、実は聴覚的な情報さえも伝えてきていることに驚かされる。戦場での激しい戦いのシーンでもなく、大自然のスペクタクルでもなく、地味な一枚の写真だが、写真本来の事実を記録し多くの人に伝えるという力をまざまざとみせつける典型的な報道写真の一枚だ。 (続きを読む…)

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[2010 年 10 月 28 日 | No Comment | 3,173 views]
「見立てる」ということ《現代工芸への視点  ―茶事をめぐって レビュー》

「見立てる」とういう言葉がある。本来詩や和歌の世界で使われ「物を本来のあるべき姿ではなく、別の物として見ること」という意味だが、茶の湯の世界ではことさらに大切な意味を持つ。例えば花器ではないものを花器として使うことや、茶碗ではないものを茶碗として使うこと、それを「見立てる」と言い、この視点で様々な工芸品を茶の湯の世界に採り入れることができるというのだ。

今、東京国立近代美術館の工芸館で「茶事をめぐって」という展覧会が開かれている。この展覧会には「現代工芸への視点」という副題が付いていることからもわかるように、茶事をめぐる様々な現代の工芸品を400年あまりの歴史を持つ茶の湯の世界を通して眺めてみようというものである。そしてこの展覧会でも「見立て」が重要なキーワードの一つになっている。 (続きを読む…)