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Articles in the 関東 Category

小平信行, 展覧会レビュー, 関東 »

[2014 年 3 月 31 日 | No Comment | 4,065 views]
アートの境界線《イメージの力―国立民族学博物館コレクションにさぐる レビュー》

それは仮面や家具、神像など骨董品がずらりと並ぶ薄暗い店の奥にかかっていた。荒い生地の黄色く変色した古びた布。よく見ると布には奇妙な文様が施されている。単純な文様ながら、おもちゃ箱をひっくりかえしたような不思議な造形。矢印が伸び、その途中が枝分かれしたような形、またたく星のような丸い文様、どこか大柄な太った人とやせた人が群れを作って歩いているような形など、どれ一つをとってみても様々なイメージがわいてくる。かつて陶磁器の茶器や皿などに面白半分でその形をデザインとして刻んだことがあった。文様を刻むと単調な形の器が妙に異国情緒漂う不思議な雰囲気を醸し出していたことを今でもはっきり覚えている。

その布とはコンゴ民主共和国のクバ族の女性が儀礼の際に身に着けるヤシの葉の繊維で作った布地で、荒い目のある布地に施された文様は、実は穴のあいた部分をふさぐ目的でつけられたものだ。後に人々は穴の有無とは関係なく、不思議な形のアップリケを施し身につけ祭礼にのぞみ、後にはファッションとして楽しんだのだという。 (続きを読む…)

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[2014 年 2 月 28 日 | No Comment | 4,793 views]
使う器から見る器へ《隠﨑隆一 事に仕えて レビュー》

展覧会場に入ってまず目につくのが《ZOI》というタイトルがついた作品だ。高さは1メートル近くあり、黒く細いくねった管が蛇の首のように立ちあがった形が印象的だ。果たしてこれは器なのか、オブジェなのか。タイトルからは想像できないが、よく見ると上部に口があり、花器という見方もできる。

《備前三足花器》は黒い焼き締めの高さ30センチあまりの小ぶりの作品だが、手を腰にあててあたかもダンスをする女性のようだ。同名の5個組の作品は5人の太ったおばさんが会話をしているようにもみえる。これらの作品は用を離れ、造形性に富んだあたかも「見る器」のようでもある。

備前焼の伝統を背負いつつ、新しい造形を追求する陶芸家、隠崎隆一の個展が2014年3月30日(日)まで、東京の菊池寛実記念 智美術館で開かれている。智美術館は独特の展示方法で主に焼きものを展示するユニークな美術館だ。特に照明には凝っており、大きな薄暗い空間に並べられた作品は、一点一点が陰影を生み出し、独特の展示風景を作り出している。冒頭にも紹介した高さが1メートル近い今回の個展の目玉作品ともいえる《ZOI》や、《ファランクス》と名付けられたオブジェなどが、広大な展示室にスポット照明で並んだ光景はどこか空想の世界に連れていかれたかのようだ。 (続きを読む…)

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[2013 年 12 月 27 日 | No Comment | 4,104 views]
余白の美学《ターナー展 レビュー》

中国の南宋時代の宮廷画家 梁楷(りょうかい)が描いた水墨画に《雪景山水図》というのがある。大きな雪山が画面一杯に描かれている。山のふもとには蛇行する川が描かれ、河畔には雪をかぶった木、その前を驢馬に乗った小さな人物。雪山の大きさに比べてなんと人間の小さいことか。それでも雪原を行く驢馬と人物は実に印象深い。画面のほとんどは山の斜面でなにも描かれていないように見えるが、実はこの広大な余白が大きな意味を持っている。人間の存在の小ささと自然の大きさとを見事にこの余白が語っているのだ。

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[2013 年 11 月 30 日 | No Comment | 3,004 views]
師を超えて 《モローとルオー レビュー》

黒くて太い線、シンプルな構図、そして絵の具が盛り上がったような強烈な筆遣い。キリストの受難を描いても宗教的な雰囲気をあまり感じさせず、道化師や裁判官を描いた絵も静けさに満ちている。わかりやすくてどこか心が落ち着く。そんなルオーの絵に昔から惹かれていた。

ルオーについてはこれまで何度も展覧会に足を運び、油彩画や版画を眺めてきた。しかしルオーが19世紀象徴主義の画家モローの愛弟子だったいうことは、今回始めて知った。

モローが国立美術学校で教鞭をとっていたのは1892年以降、亡くなるまでのおよそ6年間。モローのもとで学んでいたマティスやマルケなど20世紀を代表する画家の中でルオーはモローの最も信頼の厚い生徒だったという。ルオーはどのようにモローの教えを受け、あの独特の作風を確立していったのだろうか。

そんな疑問に答えてくれる展覧会『モローとルオー・聖なるものの継承と変容』が東京のパナソニック 汐留ミュージアムで2013年12月10日まで開かれている(12月20日からは松本市美術館へ巡回)。パリにあるギュスターブ・モロー美術館所蔵のモローの作品を中心に、ルオーの絵と合わせておよそ70点をテーマごとに6つのコーナーで紹介している。単に二人の絵を展示するのではなく、モローの絵がどのようにルオーの絵へと継承し変容していったのかを暗示する展示が際立つユニークな展覧会だ。 (続きを読む…)

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[2013 年 9 月 30 日 | No Comment | 3,929 views]
肖像画に込められた物語 《プーシキン美術館展 フランス絵画300年 レビュー》

安土桃山時代の絵師、長谷川等伯の生涯を描いた小説「等伯」のなかに肖像画を描くシーンがある。等伯といえばあの《松林図屏風》が有名だが、実は出世作となる絵画は肖像画だった。京都へ絵師になるために上京したての頃、等伯の腕を見込んで頼まれたのが、本法寺の日堯上人の肖像画だ。

30歳そこそこにもかかわらず、不治の病に侵され明日をも知れない命だという日堯上人は、すでに悟りをひらき、寺に居ながらにして遠くのものを見、感じる能力を持っていたという。当時、信長が起こした比叡山焼き撃ちで無残にも死んでいった多くの者の苦しみや悲しみを受け止め、成仏させようと祈り続けるうちに病に侵された上人から、死ぬ前に「尊像」を描いてほしいと頼まれたのだ。「尊像」とはただの肖像画ではない。後の修業僧のために描かれるもので、描かれた絵を見てどこまで悟が進んでいるのかわかるものでなければならない。 (続きを読む…)

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[2013 年 7 月 29 日 | No Comment | 11,072 views]
驚異の高精細写真が語ること 《アンドレアス・グルスキー展 レビュー》

その写真は横幅なんと5メートル、大きさといい解像度といい驚異に満ちている。タイトルは《フランクフルト》。ドイツのフランクフルト空港の待合室を俯瞰で捉えた写真だ。写っているのはフライトの発着案内の電光掲示板と、そこで待つ旅行者たち。会場で写真を眺めたとき、あたかも大きな窓から空港の待合室を見下ろしているかのような錯覚すら覚える。細かい部分に眼をやると、小さな電光掲示板の文字や大勢の人々の表情までもが手に取るようにわかる。全体と部分の両方から見事に被写体を写し取っているのだ。

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[2013 年 5 月 28 日 | No Comment | 4,371 views]
眼をとじて心で見る 《オディロン・ルドン ―夢の起源― レビュー》

なぜだかわからないが、それは意外に小さかった。19世紀から20世紀初めにかけてフランスで活躍した画家オディロン・ルドンの《眼をとじて》と題された絵だ。

ルドンといえば石版画や木炭による奇怪で不思議な黒い絵を思い浮かべることが多いが、私はなぜかこの《眼をとじて》が以前から気になっていた。

男とも女ともつかない人物が静かに眼をとじている。何かを瞑想するようでもあり、眠っているようにも見える。静謐な雰囲気に吸い込まれそうな独特の静けさに満ちあふれた絵だ。大空いっぱいに描かれた人の顔・・・。これはきっとかなり大きな絵に違いない。そう勝手に思い込んでいたのである。 (続きを読む…)